葺不合神社、その“空気”の素晴らしさ



 葺不合神社は我孫子の新木にあり、東葛飾郡の城址を解説した『東葛の中世城郭』によると、この地に相馬氏に属する新木城があったとの伝承があるそうです。ただ、その実在性は確かなものではないとのこと。それはともかく葺不合神社は、本殿の彫刻が面白い。実際に見るとちょっと凄いです。美術品としてはどうだか分かりませんが、工芸品としては見事なものだと思います。

 神社の名称の「ふきあえず」ですが、歴史オタクにして日本神話も守備範囲の私はすぐにピンときます(笑)。この神社の祭神はウガヤフキアエズ。そう神武天皇の父神ですね。ですから、透かし彫りも日本書紀や古事記でお馴染みの光景が掘り込まれています。




 これが本殿の透かし彫りです。最初の写真は天岩戸ですね。アマテラスが弟のスサノオの狼藉に怒って隠れてしまった大事件です。そして次の写真が、「てめぇ、出て行け」と天を追い出されたスサノオが出雲でヤマタノオロチを退治する場面。

 三番目の写真は神武東征。カムヤマトイワレヒコ(後の神武天皇)が物部氏の祖神、ニギハヤヒのいる大和へ進軍する場面です。ちなみに手賀沼の南方には、ニギハヤヒを祀る鳥見神社が多数あります。ちょっと面白いですね。




 ただ、葺不合神社に心を奪われたのは、この彫刻のせいではありません。とにかく、この神社を包む“空気”が素晴らしいのです。おそらく訪れたのが梅雨のこの季節だったからでしょうけど、モイスチャーな静けさに満ちています。

 この神社の参道は国道356号から北へ伸びていますが、途中で一度谷に降りる形になっています。それからしばらく歩き、再び拝殿に向かって上がるのですが、この谷の部分がとても良いのです。

 国道からの自動車の騒音がかすかに聞こえてきますが、ほとんど気になりません。ぽっかりと広がる谷底のような境内の風情が、本当に心を落ち着かせてくれます。季節によって雰囲気は異なりそうですが、梅雨の季節、この葺不合神社はポタの立ち寄り先として、絶対のお薦めです。




 ちなみに、参道の正面、階段を上がったところの拝殿は弁天堂だそうです。ウガヤフキアエズノミコトの本殿はその奥にあります。昔はこの弁天堂、布施弁天 と並ぶ弁天様だったそうですが、拝殿を通して本殿を直接拝めるようにと、弁天様を拝殿の端に移したそうです。なんか弁天様が気の毒ですね。

 で、奥にある本殿ですが、ご覧のような檻のような建物の中に納められています。彫刻を守るための配慮だと思いますが、かなり無粋です。最初は農家の納屋かと思ってしまいました。



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